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高松地方裁判所 昭和50年(わ)146号 判決 1978年5月29日

主文

被告人を罰金三万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三三年三月高松鉄道郵便局へ事務補助員として就職し翌年一二月正式に郵政事務官として採用され、同三八年三月から高松郵便局の郵便課へ配置換えとなって勤務する間全逓信労働組合(以下全逓という)高松鉄道郵便局支部青年部副部長、全逓高松郵便局支部青年部副部長、同執行委員、同副支部長を経て同四八年九月以来香川地区中最多組合員を擁し、同地区を事実上統括する立場にある全逓高松支部支部長をしていたものであるが、ストライキ権の奪還等九項目の要求をかかげた全逓中央闘争本部の指令に基づき同五〇年度(以下すべて同年につき月日のみで表示する)春季闘争の一環として五月一〇日に全国的に拠点局を指定して二四時間に亘る同盟罷業(以下単にストと略称)を実施することになり、全逓高松支部では香川郡塩江郵便局(以下塩江局という)ほか数局がスト拠点局として指定された。

立石富子は、塩江局に保険内務主任として勤務し、塩江分会に所属する組合員であるが、従前分会五人組班長をしたり、ストに参加するなど組合活動に比較的協力的であったものの、前年度のスト以来組合による統制が厳しく自由意思が制約されることなどに不満を感じていたうえ、かねてから、ストに参加すれば主事への任用、高令退職予定者に対する特別昇給の恩典の付与などの取扱いにつき事実上不利益な取扱いを受けるのではないかとの危懼の念を抱いていたため、五月一〇日のストには参加を見合せる決意をし、同月六日ころ東部支部執行委員山田清定に対してその旨を伝えた。山田らは立石にストに参加するよう飜意を求めたが、効を奏しなかったので、立石とかねてから親交のあった被告人が責任者となり女性組合員を含む数名とともに同月九日塩江局に赴き立石に対し同様の説得に当ることとなった。

立石は従来の全逓ストに際し、参加組合員がスト実施前日の退庁時ころスト不参加の組合員を説得のため相当強引に一定場所に連れて行くことを聞知していたので、同月七日塩江郵便局長別所彰(当時五八年)に対し、同月一〇日は就労する旨を告げるとともに、右のような事態に陥ることを避けるため、同月九日の午後三時一五分から退庁時間の午後五時一五分までの二時間の年次有給休暇を請求し、同月九日午前八時三〇分ころ別所局長から右休暇の承認を得た。

立石は、同月九日には五〇分間休憩時間と勤務時間を振り替えたうえ午後二時三〇分ころ買物のため付近の〓食料品店に出かけたが、同店内で被告人よりも先に塩江に到着して説得の機会をうかがっていた女子組合員から執拗にスト参加を呼びかけられたものの、かねての決意のとおりこれを拒否していたところ、偶々別所局長が同店前を通りかかったのを認めてこれを呼び止め、同人に右事情を説明して今後の身の処し方を相談した。別所局長は立石がスト参加組合員に連れ去られることを危懼するとともにスト参加組合員が立石に接触することを防ぐため、かねてから特定郵便局長会議等において打ち合わせていた通り、立石に自宅に行くよう指示したところ、立石はこれに従い、同日午後二時四〇分ころ別所局長宅に赴き、翌日午前零時すぎまで同所に滞在した。

一方、被告人は同月九日午後四時すぎころ塩江局に到着したが、先に到着していた全逓高松支部執行委員須藤行彦から立石は別所局長の自宅に入ったまま出て来ない旨報告を受けたので、直ちに須藤ら組合員数名とともに同局舎内に立入って別所局長に対し、こもごも「立石はどこへ行とんや。」「年休届を見せ。」「立石さんが局長の家に入って行くのを見た人が居るぞ。」「今すぐ局長の家に行かんか。」などと執拗に詰問したところ、このような交渉に不慣れな別所局長が自宅にかくまっていることを認めたので、さらに、別所局長に電話で立石が同人宅にまだいるかどうかを確認させたところ、同局長は咄嗟に立石が自宅にいることを答えれば事態がさらに混乱することを恐れて「先程まで居たが今は出ていない。」と虚偽の返答をしたが、被告人はこれに疑を懐き同局長と同行のうえ右事実の真偽を確かめることを要求したので、同局長はこれ以上の押問答は業務の遂行に支障を生じることを恐れ不承不承ながら同行を約して被告人らとともに局外に出た。

被告人及び須藤らは同局長とともに同局長宅に赴く途中午後四時三〇分ころ同町安原上四一九番地所在和田薬局店(経営者和田武)前に差しかかった際、同店内において、偶々同人と雑談していたスト監視班の川岡郵便局長穴吹静雄が別所局長を認めて店内に呼び入れ、別所局長から事態の経緯を手短に説明をうけ、被告人らを立石に面談させれば、さらに事態が紛糾することを恐れ、別所局長に首を横に振るなどして同行を拒否するよう合図した。別所局長は、その意図を察知し、前示のとおり心ならずも被告人らと同行する羽目になっていたところであったので、これに応じ、上り框に道路に向って腰を掛けた。店外に居た被告人らは別所局長が立ち上がろうとしないのを見て「こんなところに座りよったらお店の邪魔になる。」「局長よもよもせんと早よう家に行かんか、何しよんや。」などといって違約を責めて同行を促し続けたが別所局長がこれを無視して同行に応じなかったため、その態度にいたく憤慨した。

被告人は、「局長、話がちがうでないんな。」と言うなり、同店内に入り別所局長の正面からその右前腕部を両手で掴み店外に引張り出そうとして数回立ち上るように促したものの同局長が右手を後方に置き両足を土間に踏んばり上体を後方にのけぞらせて動こうとしなかったため、一気に引き立たせようと力を込めた際、この状況を見ていた前記須藤行彦が同店内に立入って両手で別所局長の左腕を掴んだ。ここにおいて、被告人は須藤と暗黙のうちに暴力を用いてでも別所局長を引き立せたうえ強引に連行すべく共同意思のもとに一体となって互に他の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする共謀をなし、被告人ら両名は半身に構えながら同局長の両腕を力を合せて強く引張り、別所局長を土間に立たせ、被告人において同局長の右腕の袖下を左手で掴んだまま右肘を曲げて前に突き出すようにして同局長の右胸部下付近を一回強く突き上げ、さらに、被告人ら両名が引き出そうとしているのに対し片足を敷居にかけて抵抗している同局長の両腕を前同様に掴んだまま、被告人ら両名においてしゃくるようにして勢よく店外に引張り出したため、同局長をして、上半身が前に泳ぎバランスを崩してたたらを踏んだかっこうで、前方に向って傾斜したコンクリート敷上約一メートル先に右脇腹を下にして転倒させ、もって数人共同して暴行を加えたものである。

(証拠の標目) (略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、「被告人らは、別所局長とともにスト不参加の意思を表明した立石富子を説得するため、同局長宅に赴く途中、同局長が和田薬局に立ち寄り、同行を拒む態度を示したので、再三同行を促したにもかかわらず、これに応じようとしなかったため、被告人において同局長の右手を掴んで二、三回持ち上げるようにして同行を促したが、同局長は立とうとしなかった。そこで、須藤行彦が同局長の左手をとって立たせようとすると、同店主和田武が被告人の肩を背部から突きとばしたので、被告人は同局長の手を離して外にとび出した。そのため、同局長は一方の支えを失って上り框からすべるようにして土間に腰をおとした」などの事実を前提として第一に、被告人は、約束に従って別所局長に対し自宅までの同行を促しただけであって現実に怪我している訳でもなく、また偶々尻餅をついたのは被告人の意図的行為に基づくものではなく、したがって被害があったと言えないし、仮りに被害があっても極めて軽微であること、第二に組合は団結権を維持するためスト不参加の意思を表明した脱落組合員立石富子に対しその非を明らかにし、組合の決議に従うように説得する機会を持つ権利があり、組合員はその説得を受認すべき義務があるが、かかる組合存立のための基本的権利を保護という名目で立石を自宅にかくまって侵害している別所局長に対し説得の機会を与えるよう申し入れ、同行を求めることは説得活動の一環であって目的において正当であること、第三に、被告人らは、一旦自宅への同行を約束しておきながらこれを拒否した別所局長に対し繰り返し約束を守るように要求したのにもかかわらず、これをあくまで拒否する態度を示したので、約束を守らせるために同局長の手を取って立ち上らせようとするのは自然な行為であって、その態様から見ても殴る蹴るという典型的な有形力の行使ではなく、社会共同生活の上において許容されるべき範囲内の行為で、これを逸脱していないこと、仮りに逸脱したとしても極めて軽微であること、第四に、労働関係においては相互信頼関係を維持しなければならないのに別所局長は約束を一方的に破棄したものでその反道徳性は強く非難されるべきことが認められ、本件行為の目的、動機、行為の態様、被害の程度等に照らせば、本件行為は暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、刑法二〇八条所定の暴行罪において構成要件上予想されている違法性を欠き、暴行に該当せず、したがって、本件行為は団結権を擁護する目的を達成するためになされた正当な行為にもあたるし、仮りに暴行に該当するとしても実質的違法性がなく、犯罪が成立せず、いずれにしても被告人は無罪である旨主張する。

よって検討するに、行為の違法性は法秩序全体の精神や社会的正義の理念から、これを実質的に評価決定すべきものであるところ、法益の侵害が軽微であり、行為の態様がその目的、手段等諸般の事情に照らし、社会共同生活上容認されうる相当性が存する場合には、構成要件上予想された違法性を欠くものとして、行為の構成要件該当性そのものが否定される場合もある。また、暴力の行使に当らない限り、労働組合の団体交渉その他の行為であって、労組法一条に掲げる目的を達するためなされたものは正当な行為となる。あるいは、さらに正当防衛や緊急避難に該当する場合はもとより、これに該当しない場合であっても刑法三五条の趣旨にも従い、行為の目的性、手段の相当性、法益の均衡及び行為の補充性等を考慮したうえ、法秩序全体の精神と社会正義の理念に照らし、実質的違法性がない行為として犯罪の成立が阻却される場合もあることは一応認めざるをえない。

以上の見地から前掲各証拠により本件事実関係を検討してみても、本件は判示の如く全逓香川地区東部支部において塩江局外数局を拠点として昭和五〇年五月一〇日に予定した二四時間ストに組合員である立石富子が不参加の意思を表明したことに端を発し、その後同女に対する数次の説得追及を経て本件当日さらに同女に対し説得が行われたので、別所局長は同女を自宅に保護した。なるほど同女を自宅に保護することは被告人らスト参加組合員にとっては説得の機会を奪うものであり、同女との説得の機会を得るため、同局長に自宅まで同行を求めることは説得活動の準備ないし一環をなす行為といえる。しかしながら、国家公務員である郵政職員には公共企業体等労働関係法四条において団結権を、同法八条において管理運営に関する事項を除き当局側との団体交渉権、労働協約締結権を認めているが、職員及びその組合には同法一七条により一切の争議行為を禁止しているため、職員及び組合はストを決議することはできず、仮にこれを決議したとしても組合員にスト参加を義務づけることはできないので、被告人らがストに参加しない意思を表明している立石に対してその理由の釈明を求めたり、ストに参加するように説得したりすること自体刑事罰に直結しないまでも、本来許容されない違法行為と認められる。被告人らの行為は、被告人らの団結権の擁護のためというより、主として違法な争議行為への参加説得のためであることは明白であり、しかも団結権はかかる違法なストにより或は違法説得行為によって擁護されることまで保障するものではなく、したがって、目的において必ずしも正当化しうるとは認めがたい。

また、被告人らの本件行為は、別所局長が被告人らに対し、自宅に赴く約束をしておきながら、これを破ったことに基因しているけれども、右約束は同局長が局舎内において多数組合員による執拗な追及にあい、正常な業務活動を阻害することを恐れて不本意ながらなしたものであり、しかも同局長宅に赴く目的は違法な説得にある点に照らせば、同局長の背信行為は左程非難に価するものとはいえない。

つぎに、被告人らが別所局長に加えた有形力の行使は、前示のとおり、同局長が上体を後方にのけぞらすなどしたり、若しくは片足を敷居に踏んばって抵抗するにもかかわらず、これを排除して同局長を引張り立たせ若しくは外へ引張り出して転倒させたものであること、或は後日に痛の残るほど胸部を肘で突いたものであることより見れば、被告人らは相当強く力を加えたものであることが認められるうえ、これらは連続して行われたものであって、被害が軽微であるとはいえない。

さらに、被告人らが別所局長に加えた判示の如き有形力の行使の態様を前示の目的、手段等諸般の事情に照らせば、同局長に同行を促すにしては、社会共同生活上容認された範囲を著しく逸脱したものというべきである。

前示のとおり団結権は違法な説得行為によって擁護されることまで保障したものではないので、別所局長が立石を自宅に保護したとしても、団結権を侵害したものとはいえないので、被告人らの行為によって侵害された別所局長の法益と対比すべき被告人らの侵害された法益はなく、また別所局長が同行の約束を破った動機、経緯、殊に被告人らが別所局長に飜意を求めた方法が判示のとおり穏当を欠き、且つ短時間であった点を考えると、なお同局長と穏便に話し合って事態を解決する方法が存したといわざるを得ない。

そうだとすると、被告人らの行為の違法性は軽微なものでなく、暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、刑法二〇八条所定の暴行罪が構成要件上予想する違法性を欠くものとは認められないから、被告人らの行為は暴行に該当する。また、被告人らの行為は組合決議に従わない組合員の説得行為の一環として発生したものであるとはいえ、暴力の行使に当るうえ、団結権の擁護を目的としてなされたものとは認められないので、労働組合法一条二項の正当行為にも当らない。さらに、法益の均衡、行為の補充性等から見ても、超法規的に実質的違法性を阻却するものとは到底認め難い。

よって弁護人らの右主張はいずれも理由がなくこれを採用することができない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、罰金等臨時措置法三条一項二号に該当するが、本件犯行の経緯、態様、結果の程度等を考慮して所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金三万円に処し、右の罰金を完納することができないときは刑法一八条により金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

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